ご出光

「ごしゅっこう」と読みます。

聞き慣れない言葉ですが、我が融通念佛宗では、唯一無二の大事な行事です。一年に2回 3月3日と9月9日(三年に一度は、9月7日)の早朝に勤める行事です。

融通念仏宗の御本尊は、十一尊天得阿弥陀如来の掛け軸です。

永久五年(1117)5月に元祖良人上人が、阿弥陀仏様から直々にお受けになった掛け軸です。

その御本尊が、総本山 大念佛寺の本堂からお出ましになり、各檀信徒の在家を巡り回る伝統行事を御回在と云います。

そのまさに御本尊が、普段安置してある本堂からお出ましになる事が「御出光」と云います。

日本十三宗のなかで、御本尊が本堂からお出ましになるのは、我が融通念佛宗だけです。しかも、この有難い行事は、江戸時代から400年も続く伝統行事です。

 

御出光の当日、早朝に本堂でお勤めが始まります。お勤めを始める頃は、まだお日様が出る直前で、辺りはまだ薄暗いです。そしてお勤めが終わると、御本尊である十一尊天得如来様の掛け軸が巻かれ、御本尊は安置する御箱に入られます。

道鉦(みちがね)が先導して、御本尊を本堂の退堂口に誘(いざな)います。

カッカン~ カン、カン、カン、カン、カン、カンと道鉦の美しい音が境内中に鳴り響きます。すると、東の空から朝日が急に本堂の中を照りだし、まっすぐな朝日の光が、まるで御本尊をお迎えするような、神々しい光が御本尊を照らします。その中を供奉する僧侶が御本尊を大事に愛おしいように戴(いただ)き、御本尊がお出ましになられます。

誰もが、自然と合掌をして御見送り致します。

静かな早朝の境内、道鉦の気持ちの良い響きと御本尊を供奉する僧侶らの下駄の音だけが、厳かに響きます。

道鉦の音は、まるで御本尊の前を浄めていくような響きで、浄められたその空間を御本尊が歩を進められます。

見送っていると徐々に御本尊の御姿も小さくなっていき、やがて山門を出られると見えなくなります。しかし鐘の音だけは聞こえてきますが、見送る私たちに聞こえるその音も、徐々に小さくなっていきます。

私は、まるで大事な家族が長い旅に出かける時のように、合掌しながら心の中で、思わず

「気を付けて、いってらっしゃい」とお声を掛けたのでした。(寿)

(撮影:脇坂実希)