近しいひとを亡くした者は、誰しも「亡くなったひとが幸せになってほしい」そう願うものです。仏教的に表現すると、「極楽浄土に往生してほしい」となります。
だけど往生したままだと少し寂しい、そう思うのも人情です。
「亡くなったひとには極楽浄土に往生してほしい、だけどたまにはこちらに戻ってきてほしい」
「たまに」の願いが、仏教の教えと重なり、お盆には亡きひとが里帰りをする、そんな信仰が生まれました。
そうなると、更に、「亡きひとに戻って来てほしい、なるべく早く」となるのが、これまた人情です。
今回のテーマの「精霊馬」は、そんな思いから生まれました。「精霊馬」と書いて「しょうりょううま」と読みます。キュウリに4本足が付いたお供えもの、亡きひとがお戻りになる時に乗るとされます。「お戻りなる時は早く」そんな願いが込められた、まさに早馬です。
ちなみにお盆が終わり、極楽浄土に帰られる時は、名残を惜しんでゆっくりと、ナスに4本足、少し太め、こちらは牛を表します。
なんともユーモラス。でもこのユーモラスが大切なんですね。
私たちは近しいひとが亡くなった時に悲しみに襲われます。もちろんその悲しみは大切です。悲しむことで亡きひととつながれるんだから。そうは言っても悲しみばかりだと心が持ちません。そこに笑いがないと。精霊馬は私たち日本人が培った知恵かも知れませんね。
私たちは亡きひとと接する時に、「南無阿弥陀仏」と口にします。仮名で書くと、なむあみだぶつ、なんとも柔らかい響き、心が癒されます。そこにも、遺された者に対する、先人の深い知恵があるのかも知れませんね。(丈)
(撮影:脇坂実希)