カンカンカンカン・・・!
鉦の音が響き渡る中、長く大きな塗りのお箱に収められたご本尊様を先頭に7人の僧侶が早足で過ぎ去って行く。
村ごとに、そして一軒一軒余さずにお勤めしては、家人一人ひとりに身体堅固とご祈祷し、あっという間に去って行く姿。
その姿を垣間見られた方々は、まず鉦の音に驚き、足早に進む僧侶たちを見ては「一体何事?」と不思議な顔をされます。
江戸時代から続く、融通念佛宗の一大行事の「御回在」。
この御回在は総本山大念佛寺第三十六世、良説道和上人の頃に始まったとされています。
大坂夏の陣の折、徳川家康が大念佛寺において戦勝祈願をし、無事に勝利をした御礼として道和上人に土地の寄進を申し出たところ、土地の代わりに御回在の許しを願われました。
それ以来約四百年の長きにわたり連綿として続いているのです。
御回在は、先祖回向、ご祈祷、井戸や竈門のお祓い、そしてお念仏の勧進という四つの柱から成り立っています。
ですが、何よりも大きな意味があるのは、総本山から各末寺の檀家一軒一軒に、それも本山のご本尊様がお越し下さるということ。こればかりは日本中どの仏教宗派を眺めても、他にありません。
本宗が大阪府、奈良県、あとはその近隣の府県にしか末寺が無いという特殊性に寄るところが大きいのですが、それほど貴重な行事なのです。
9月の初め、本山をご出光された御回在一行は、残暑厳しい大和の在所を回り、やがて黄金色に色付く稲穂の中を進みながら、御帰院される12月半ばには、霜が降りた田舎道を白い息を吐きながら歩まれます。
寒い時期から暑い時期、そして暑い時期から寒い季節まで、河内と大和を一年通して回られる御回在。残念ながらここ数年はコロナ禍のためいつものようにお回りができない状況が続いています。
今年も新しいコロナ株が蔓延してきているためお回りはなくなり、ご本山においてのお勤めとなってしまいました。僧侶の身としては寂しい限りですが、来年こそは元の姿で鉦の音を響かせながらお檀家の方々とお会いできることを待ち望んでいます。(善)
(撮影:脇坂実希)