万部法要

「今年の万部法要はないらしいわぁ 本堂の屋根修繕やてぇ」

いえいえ今年も万部法要はあります 仰るように御本堂の屋根修復に伴い 立ち入りができなくなっている為 西側の延喜殿に場所を移して 「普段聞けない万部法要のお話」を企画しております

どうぞ足をお運び下さい

 

JR平野駅から南に一直線 しばらく進めば大念佛寺の壁が見えてきます

山門を潜れば そこには大きな銀杏の木 心地よい風に 蓄えた若葉を揺らします

銀杏は生命力が強い木らしく 「長寿の木」とも言われ 古くより神霊宿る木と言われておりました

 

本宗の「宗紋」は この銀杏の葉を五枚合わせて 大を形作ったものなんです 私感ですが 紋には「仲良く暮らす」「お念仏を称えて救って頂く」など 御念仏の利益が織り込んであると思っています

 

万部法要中の「菩薩お練り」は この思いを「見えるカタチ」に整えたものです

この願いが「いつまでも いつまでも」続きますようにと 思い繋いだ900年余 信仰の灯を絶やさず 今に至りました事は 銀杏大のお姿に込めた 先人の御心そのものです

 

万部法要は 正名を「二十五菩薩聖聚来迎阿弥陀経万部法要」と申し 宗の灯りを繋ぎ頂いた事への感謝と 未来に向けて 末永い繁栄を願い行われる 本宗最大の行事の一つです

 

この御会式は 名の通り「聖衆来迎会」と「阿弥陀経万部会」が合わさってできた法要です

 

聖衆来迎会は 融通念佛宗中興の祖 法明お上人が 奈良は当麻寺の「お練り」をご覧になったことに始まります

 

「お練り」の先頭を行かれる観世音菩薩が 紫蓮台に中将姫を乗せ生身のまま 往生の本懐を遂げられるお姿に 「世の多くの人々にも見て頂きたい」と 法明お上人自ら導師となられ 営まれたのが最初と伝わります

 

無量寿経というお経の中にある 「毎日お念仏に称えたなら そなたが寿を終える時 私は菩薩を従え 必ず迎えに参る」という 阿弥陀仏 念仏往生の姿を再現したものが菩薩聖衆来迎会です

 

阿弥陀経万部会は 江戸時代 第四十九世尭海お上人の時 ここ大念佛寺に上納なされた 永代供養の霊位・施主名を記す霊名簿を 輿に載せて 練り歩き  阿弥陀経を一万部読誦して 御回向したのが始まりです

 

現在の万部法要はゴールデンウィークの五日間 この中で 最も魅了されるのは「菩薩のお練り」です

 

菩薩入御の刻になると 二十五菩薩が順番に姿を現されます

先頭は観音・勢至の両菩薩 阿弥陀仏の脇侍で お側にて補佐される菩薩です

 

「大悲観世音菩薩は 百福荘厳の臂を擧げ 行者の趺を 金剛臺に受けたもう…」と讃じられ 十悪盛んな衆生を 大慈悲心をもって 苦悩の日々より お救い上げて下さいます

 

御念仏を称えて その御手にある紫蓮台に乗ずることを許され 極楽往生 悟りの世界へとお連れ下さる観世音菩薩

 

「大勢至菩薩は 柔指柔軟の御手を伸べ 行者の頂を撫でて 讃じて善哉善哉と言う…」

 

苦悩の淵に佇む私達に 柔らかく 温かな御手を差し伸べ 涙を拭って下さり 母の大慈にも似た御心で 「大丈夫 大丈夫」と頭を撫でて下さる大勢至菩薩

 

強い帰依心をもって結ばれた合掌の御手で 私達を包みて 「仏と堅固な縁を結びなさい」と 信仰の灯火を 大きくして下さいます

 

こうして菩薩様にお会いできる私達は すでに仏様と縁を結んで頂く身 大慈悲という施しを頂く身であるということです

 

観無量寿経というお経の中には 極楽浄土に往生するのに九品ありと 九品往生の姿が説かれています

 

これは往生願う私達のもとに 西空より阿弥陀仏・菩薩の一団が来迎下さる際に 私達の信心の有様に応じ 上品上生から中品中生・下品下生まで 全九つの姿をもって現れるという教えです

 

万部法要の「お練り」は 上品上生 最高のお迎えのお姿です

気高き香りを放ち 見る人聞く人の心に届いて 世間浄化の種となる…

このお姿に御念仏を称え 弥陀光明の利益を頂き 善き心を芽吹かせる事は 汚れを落とし 心穏やかにして 往生できる喜びを得ると事に外なりません

 

自己都合という欲に縛られ 苦を背負いがちな私達…

回数ではない 声の大きさでもない 一回でも 三回でも 十回でも 自分なりの「一生懸命」を表す御念仏

この姿に仏は かかる誘惑を払い 惑わす悪魔を遠ざける良薬を与え下さるのです

 

たとえ未熟で うまく歩けぬ自分であっても 仏はその時々の姿に応じ 最良の救いを施して下さいます

 

この慈悲深き菩薩の世界には 蓮の大輪が咲き誇り 良き香りが満ち満ちて…

孔雀や鸚鵡 迦陵頻伽… 美しい鳥たちが空を舞い 仏の教えをさえずる…

鼓の鼓動は 煩悩の暗闇に道を開き 十方世界に響き渡る音色は 「一音一仏」をもって この場を一層の輝きへと変え行く…

この輝きによって 私達に備わる珠宝 仏性も練磨されて行くのです

 

軟弱な私達の菩提心は 堅強な姿へと変わり 眼にかかる霞は去り 目前で起こる出来事を正しく捉える 智慧の眼 が現れ 私達の心中に 菩薩が有する大智の因

悟りを求める心が芽を出し その功徳によって大智の果 一切の難儀を越える力 堅固な菩提心を授かるのです

 

仏は何時も 大丈夫 大丈夫 心配ない 心配ないと 大慈悲心をもって 私達を包み下さり いつしか心に 清々しい悟りの門が開くのです

 

悟りとは 法の華を 我が心に育てる事

「生かされ生きる道を行くんだ」と 因果の道理を説く鉦の音に心重ねる時 皆々と称える御念仏は 一つに融け合って行くのです

 

香煙も 紫雲と成りて世の人の 仏縁育む 法の架け橋

 

菩薩の御手より立ち昇る この香の利益によって 私達は永久無辺 いつでも どこでも 仏様とお会いできるのです

 

こうした利益を直に授け頂く万部法要

改修を終えたら ぜひ「万部法要」にお越しいただき 皆さんご一緒に 仏様の利益を頂戴しましょう

(溪)

(撮影:脇坂実希)