山中(さんちゅう)まわり

お盆が終わるころ、いつの間にか空が高くなっていることに気付きます。

「暑い・・・」

そう思いながら暮らしている間にも季節は確実に移ろい、空気に秋の匂いが感じられるようになる9月の初め、本山では大和御回在が始まります。

コロナ禍のため、この3年間は中断や不規則なお回りをして参りましたが、今年からは春の河内御回在に続き大和御回在も普段通りにお回りができるようになりました。

そして今年は「山中まわり」の年に当たります。

これは、奈良県にある末寺の中でもとりわけ本山から離れたお寺のお檀家に、3年に一度寄せていただくものであります。

「山中」と云うだけに、本山を出発して名阪国道をひたすら東に進み、一番東は名張まで、笠間や白石、三本松や福住といった在所をお回りさせていただきます。

この山中回りの何より素晴らしいところは、山あいの集落での人々との出会いだと言えるでしょう。

何しろ3年に一度しかお会いできないわけですから、村の方々も心待ちにしていただいており、休憩時間にも地元の方々とのお話に花が咲きます。

普段は慌ただしい御回在の中にあって、珍しくゆったりとした気持ちでお回りさせていただけるのがこの山中まわりなのです。

道を歩けば、もう既に刈入れの終わった田んぼ、まさに刈入れ最中の田んぼなど、里よりも早いその光景は、やがて来る秋本番の景色を先取りして、道を行く私たち供奉員の眼を楽しませてくれます。

まさに御回在の醍醐味はここにあるとも言えるでしょう。

黄金色の実りの中を、「カンカンカン…」・・・鐘の音を響かせながら足早に歩き、風のように去って行く。

念佛信仰の日暮しに息づく本尊御回在の、3年に一度しか味わうことのできない出会いが「山中まわり」にあるのです。(善)

(撮影:脇坂実希)