お盆になると沢山のご先祖様がこの世に帰って来るという。
眼にすることはできないけれど、懐かしい顔を思い浮かべ、そして薄れゆく記憶をもう一度鮮やかに思い出しながら、生前に好きだった食べ物を仏壇の前にお供えする。
例え見えなくとも、声が聴けなくても、きっとそこにいてくれていると信じて手を合わす。
そして今年はそんなご先祖様の仲間にまた一人、大切な家族の一人が加わった。
ちゃんとお浄土にたどり着けているのだろうか?
あちらではどんな暮らしをしているのだろうか?
ちゃんと曾祖父母や祖父母、親戚のお爺さんやお婆さんに会うことができたのだろうか?
聞きたいこと話したいことが沢山ある。最期まで伝えることができなかった言葉もまた数えきれないほどある。
提灯に明かりを灯し、微かに揺れる線香の煙を見つめているだけで、すぐ隣に忘れられない人が佇んでいてくれているようだ。
初盆とは、前年のお盆から今年のお盆の入りまでに満中陰を迎えた新仏様を指す言葉である。
満中陰を終え、極楽浄土に旅立ってから初めての里帰りなのである。
「おかえりなさい。」
心の中でそっと呟いて真新しい位牌を見ると、在りし日の記憶が次から次へと蘇ってくる。
心の中ではまだ亡くなっていない大切な人が微笑んでくれているみたいで思わず目頭が熱くなる。
大切な人の為に、おがらで作ったお箸を一つ増やし、六段の梯子も立てかけて、キュウリの馬とお茄子の牛もお供えしましょう。
生前には上手く言葉や態度に表せなかったけれど、せめてお盆の間だけはゆっくりと我が家でくつろいでいって下さい。(善)
(撮影:脇坂実希)