おはぎの味

彼岸になりますとよくお供えされますのは「おはぎ」、「ぼたもち」でございます。

春の彼岸は「ぼたもち」秋の彼岸は「おはぎ」と呼ばれます。

同じ材料で同じ様に作られますが、それぞれ呼び方が違います。

 

春の彼岸で供えられる「ぼたもち」は春に咲く、牡丹の花から「牡丹餅」と名付けられました。

秋の彼岸で供えられる「おはぎ」は秋の七草の萩から「お萩」と名付けられました。

 

その違いは「あんこ」にあります。

 

ぼたもちはこしあん。

春の彼岸は3月下旬、厳しい寒さを超えた時期です。

その為、秋に収穫した小豆は貯蔵され一冬越したものを使います。

収穫後に時間が経った小豆の鮮度はどうしても落ちてしまいます。

それ故に小豆をよく漉し、滑らかなあんこが使われました。

また牡丹の花に見立て、ふっくらと丸い形に作られました。

 

おはぎは粒あん

秋の彼岸は小豆を収穫したての時期です。

その為、小豆の鮮度も良く、漉したりしなくても充分に美味しい、新鮮な小豆の粒あんが使われました。

また萩の葉に見立て、少し小ぶりな菱形に作られました。

 

古来より小豆は特別な行事に使われてきました。赤い小豆は祝い事に欠かせない縁起物であります。そして魔除け、邪気を払うとされています。

また、「おはぎ」、「ぼたもち」に使われるもち米は五穀豊穣の象徴であります。

春の彼岸にぼたもちを供え五穀豊穣を祈願し、秋の彼岸に収穫した米と小豆でおはぎを供え収穫出来た事へ感謝されてきました。

 

その味は「特別な味」です。

 

今でこそ簡単に手に入るようになった「おはぎ」「ぼたもち」ですが、供られるようになった江戸時代では甘いものは貴重でありました。

その為、甘い食べ物である「おはぎ」「ぼたもち」は江戸時代の人々にとっては貴重な御馳走であったに違いありません。

 

その貴重な御馳走を春分の日、秋分の日にご先祖様へのお供え物とすると同時に生きる人々にとっても滅多に食べられない御馳走として振舞われた訳であります。

 

皆様方におかれましてはこの彼岸中、特別な味を噛み締められ、仏様に手を合わせ、特別な心でご先祖様を供養されては如何でしょうか。(哲)

(撮影:脇坂実希)