「あれが全部落ちてくるのか」とある老婦人が、
ほうきを片手にうえを見上げながら、
ため息をつかれたのを思い出します。
今年もこの季節となりました。
ひと雨ごとに、ひと風ごとに・・・いや、何もなくてもハラハラと。
束の間の秋が過ぎれば、綺麗な紅葉を見せてくれた葉たちも、
落ち葉へと変わります。
お寺の境内に、大きなイチョウの木があるのですが、
風が吹いた朝、降り積もったイチョウの葉は、やわらかな秋の陽光に照らされ、
金色の絨毯のように輝いて見えます。
まるで、お寺全体を荘厳してくれているかのようです。
あまりに美しい光景に、掃いてしまうのが勿体なくなります。
イチョウの木は、四季折々に豊かな姿を見せてくれます。
春には、芽吹き、やさしい新緑を、
夏には、力強く生い茂り、木陰をつくり、
秋には、金色に輝き、美しい紅葉を、
冬には、葉を落とし、よわい陽ざしを分かち合い、共に寒さに耐え、
私たちの暮らしに寄り添ってくれているかのようです。
寺社仏閣には、イチョウの木が植えられていることが多いです。
樹皮が厚くコルク状で、また葉は水分を多く含み、燃えにくい木だからだそうです。
火災の延焼を防ぐため、またその願いが込められています。
仏教とともに伝わってきたといわれるイチョウは、
数百年にわたり、お寺・神社を見守り続けてくれている存在なのです。
融通念仏宗の宗紋には、このイチョウの葉が使われております。
もともとは、皆で念仏を唱える大念仏宗と呼ばれておりました。
五枚の葉をつなぎ合わせ、その大の字を表した「銀杏大」といいます。
人と人のつながりを大切にする融通念仏の教えは、
今こそ見直され、
これからの時代にこそ、必要とされるのものではないでしょうか?
イチョウの木のように、そっと人々に寄り添い、
子や孫、その先の世代が、やさしい世の中でありますようにと、
イチョウの木に願う、朝のひと時でした。(光)
(撮影:脇坂実希)