大念佛狂言

カン、デン、デン。

カン、デン、デン。

鐘と太鼓が、心地よく耳に届いて来ます。

古来より伝わる芸能、狂言。

実は、融通念仏にゆかりのある狂言が、現代まで伝わっています。

京都は嵯峨清涼寺、壬生寺、千本閻魔堂、神泉苑、など。大念仏狂言、融通念仏狂言、と呼ばれています。

 

その多くは、鎌倉時代の円覚上人という、融通念仏を弘めておられたお坊さんが始められたもの、またはその流れをくむものです。

 

文字がわからない人々が多かった時代のこと、円覚上人をはじめ、お坊さんたちは、「お念仏の教えを弘めるにはどうすれば良いだろうか。」と考えておられました。

 

演劇なら、よくわかります。春や秋のころ、気持ち良い気候の中で行われる狂言は、多くの人々を楽しませ、救って来られたことでしょう。

 

今か今かと開演を待っている沢山の人たち。

ワイワイ。ガヤガヤ。

そうして狂言が始まると、アハハと声を出して笑う人。姿勢を正し真剣な表情で見つめる人。それぞれに楽しんでおられます。

 

壬生寺の春の大念仏狂言では、最初の「炮烙」という演目で、参拝者が願いを書いて奉納した何百枚ものお皿を、舞台の上から豪快に落とし割ります。

 

立ち上がる砂ぼこり。

オォーっとあがる大歓声。

 

700年前のご先祖さまは、どんな思いで観ておられたのでしょうか。

500年前のご先祖さまは。

300年前のご先祖さまは。

おじいちゃん、おばあちゃんは。

 

何人ものご先祖さまが、この狂言を観てこられた事と思います。

子孫の幸せを祈ってくださったご先祖さまも、沢山いらっしゃる事でしょう。

 

お名前もお顔もわからないご先祖さまと、同じ演劇を観て同じように笑わせてもらうと、ふと、「あっ、繋がっているんだなぁ」と思いました。

 

令和の世に大念仏狂言を観て、同じ狂言をみて昔の人々の楽しんだお姿、また未来の世界で同じ狂言をみる人々の笑っているお顔を想像すると、思わず、両手が合わさっていました。

 

カン、デン、デン

カン、デン、デン

(清)

(撮影:脇坂実希)