冬の本堂

朝、畳の部屋から素足で木の床の廊下に足を下ろすとその時の気温がわかります。普段は何も思いませんが、5度を下回ると、床に足を乗せた瞬間に「今日は冷たいな」と感じます。私のお寺ではどんなに寒くても堂内が氷点下まで下がることはまずありません。

もう十年近くになりますが、茨木市にあります宝池寺というお寺の守を任せていただきました。今は私の弟子が住職を務めております。そのお寺は竜王山の頂上付近にあります。初めて宝池寺へ行った時、本堂の花瓶が全て底が抜けて使い物にならなくなっていることに気がつきました。

手入れが行き届かないお堂でしたので、花瓶に水を入れっぱなしで劣化したのかな?そう思っておりました。花瓶が無いと格好がつきませんので自坊から余った花瓶を二つほど持って宝池寺に持って行ってお花をお供えしました。その年の冬のことです。持って行った花瓶の底が抜けていたのです。それは不思議なことでもなんでもなく、あまりの寒さに花瓶の水が完全に凍結して底が抜けたのです。

これを見て本堂の全ての花瓶の底が抜けていた理由がわかりました。それと同時に、この形の花瓶は底が抜けるような構造になっていることに気づきました。底が抜けた花瓶といっても少々の修理でまた使うことができます。これが陶器製の花瓶でしたら割れてしまうともう二度と使うことができません。こんなところにも先人の知恵が活かされているのだと教えていただいた冬の出来事でした。(和)

(撮影:脇坂実希)